2008年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

問題

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法行政法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法行政法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:小論文試験の問題及び出題趣旨

第3次選考:面接試験
問題 既修者用未修者用
出題趣旨 既修者用未修者用

出題趣旨

<公法(憲法)>

 本設問は、日常目にする事実から、憲法上の論点を抽出し、法的な言語に翻訳しつつ適切に論証できるか、を問う問題である。内閣の解散権の根拠とその限界、というオーソドックスな論点に、2005年の衆議院解散に特有の問題(当該法律案を衆議院が可決したにもかかわらず、その衆議院を解散することの問題、衆議院の解散を国民投票的に用いることの問題等)を適切に接合させながら論じることが求められる。なお、設問中の引用文において首相が1人称を多用している点からも推測できるように、2005年の衆議院解散に際しては、解散に反対する大臣を首相が罷免するなど、首相の強いリーダーシップが発揮されていた。それゆえ、内閣と首相の関係をめぐる論点も加点事由とした。


<公法(行政法)>

 行政事件訴訟法について基本的な理解ができているか否かをみようとするもの。市民会館ホールの利用許可申請に係る市長の不作為事案を設例として、誰を被告に、どのような訴訟を提起し、また、本案の訴訟に付随して、いかなる仮の救済手段を用いるのが有効・適切かを問う。あわせて、選択した訴訟および仮の救済申し立てが容れられるかについて、どのような条件を満たせばよいかを尋ねている。
 まず、訴訟としては、B市を被告として、①不作為の違法確認訴訟、②利用許可の義務付け訴訟の提起が考えられる。設例では、4月1日の利用許可申請以来、すでに3ヶ月が経過し、記念行事開催予定日であるAの創立10周年記念日に当たる10月1日まで3ヶ月を切っているため、仮の救済として、③仮の義務付け(行政事件訴訟法第37条の5)を利用する必要性が強く、そのためにも②の提起が不可欠である。
 認容可能性に関しては、①につき、申請から「相当の期間」(行政事件訴訟法第3条第5項)が経過しているか否か、②の申請満足型義務付け訴訟(行政事件訴訟法第37条の3)につき、①が認容されること、および、利用許可処分をすべきことが「明らか」と言えるか、③につき、(イ)「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があるか、(ロ)「本案について理由があるとみえるとき」に当たるか、および(ハ)「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」に当たらないか、がポイントとなる。これらの点について、設例に即して論ずることが求められる。


<民事法(民法)>

第1問
 民法の基礎的理解を問う問題である。
 詐害行為取消権制度の趣旨を論じた上で、①~③の基本的な行為類型を用いながら、債務者の行為が詐害行為取消権の対象となるか否かを判断する一般的な基準が整合的、説得的に提示されている必要がある。各行為類型が詐害行為取消権の対象となるか否かに関する基本的な判例の知識、平成16年の破産法改正との関係をふまえた検討が望まれる。

第2問
 正解は次のとおり。
小問1 2
小問2 3
小問3 2
小問4 1


<民事法(商法)>

(1)各種の組織再編行為の基本的な仕組みが理解できているかどうかを、具体的な設例によって確認しようとする問題である。①A社とB社の間でA社株式を交換対価としてA社がB社の完全親会社となるように株式交換を行う方法のほか、組織再編の対価の柔軟化が認められた会社法の下では、②C社がA社株式を合併対価としてB社を吸収合併する方法(いわゆる三角合併)が考えられる。
(2)合併条件(合併比率)が不公正である場合に株主がとりうる手段としてどのようなものがあるかという会社法学習上の重要な論点の理解を問う問題である。組織再編についてはまだ多くを学習していないという人もいるかもしれないが、そのような人でも、会社の運営機構についてきちんと理解していれば、承認決議の効力を決議取消の訴えによって争うことはできないか、反対株主の株式買取請求権を行使できるのではないかといったことを思い付くことはできるはずである。


<民事法(民事訴訟法)>

 既判力の作用を問う問題である。(1)は前訴と後訴の訴訟物が同じ場合、(2)は前訴の訴訟物が後訴の訴訟物の先決関係にある場合、(3)は前訴の判決理由中の判断が後訴の訴訟物である場合、(4)は前訴の訴訟物と後訴の訴訟物が矛盾関係にある場合、(5)は基準時後の形成権行使の場合である。


<刑事法(刑法)>

 (問1)は、文書偽造罪に関する重要かつ基本的な概念である有形偽造と無形偽造について正確に理解しているかを確認することを目的としたものである。
 (問2)は、東京地判平成10年8月19日判時1653号154頁を素材にして、①文書偽造罪に関する基礎的知識の有無(公文書と私文書の相違に関する正確な理解の有無、名義人の承諾がある場合と文書偽造罪の成否という問題に関する基本的な知識の有無、偽造文書行使罪における行使概念に関する正確な知識の有無)と②共犯に関する基礎的知識の有無(共同正犯・従犯の成立要件や共同正犯と従犯の区別に関する基本的な知識の有無)を確認すると同時に、それらの知識を具体的事案に的確に適用することができるか(特に、本件における一般旅券発給申請書の名義人及び作成者を、どのように解すべきであるかを踏まえながら、私文書偽造罪の成否について的確に論じているか、名前の使用を許可したXが、本件文書の偽造に関する共犯となりうるかについて的確に論じているか)を確認することを目的としたものである。


<刑事法(刑事訴訟法)>

 最高裁平成15年2月14日第2小法廷判決(刑集57巻2号121頁)の判断内容に関する基本的知識を有することを前提に、それと類似した事案を用いて、違法な手続と関連性を有する証拠(派生証拠)の証拠能力に関する理解度(問題の所在を的確に指摘し、事案に即して議論を展開できるか)を確認することを目的として出題した。
 刑訴法201条1項によれば、「逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない」が、同条2項は、73条3項を準用し、警察官が、逮捕状を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、被疑者に対し被疑事実の要旨及び逮捕状が発せられている旨を告げて、逮捕することができる(ただし、逮捕状を、できるだけ速やかに示さなければならない)としている(緊急執行)。
 本件では、窃盗の被疑事実による逮捕状が発付されているが、設問では、警察官らは、逮捕状を携行しておらず、逮捕時に、Xに対して、逮捕状が呈示されなかったとの心証を裁判所が抱いているとされていることから、まず、それを指摘したうえで、逮捕状の緊急執行がなされたか、検討すべきこととなる。
 そして、逮捕状の呈示がなく、逮捕状の緊急執行の手続も践まれていないと判断する場合、逮捕手続には違法があり、逮捕当日に採取されたXの尿に関する鑑定書は、違法な手続と関連性を有する証拠(派生証拠)だといえることから、その証拠能力が問題となる。
 この点、前記平成15年判決は、本件類似の事案について、最高裁昭和53年9月7日第1小法廷判決(刑集32巻6号1672頁)を参照しつつ、被疑者の逮捕手続には、逮捕状の呈示がなく、逮捕状の緊急執行もされていない違法があり、これを糊塗するため、警察官が逮捕状に虚偽事項を記入し、公判廷において事実と反する証言をするなどの経緯全体に表れた警察官の態度を総合的に考慮すれば、逮捕手続の違法の程度は、令状主義の精神を没却するような重大なものであり、逮捕の当日に採取され、違法な手続と密接に関連する被疑者の尿に関する鑑定書の証拠能力は否定される、との判断を示している。
 本件の検討に当たり、この判例に依拠し、結論において、尿の鑑定書の証拠能力を否定する場合、前提として、判断基準を明確に示すべきことはもちろんであるが、逮捕状が発付され、逮捕の要件自体は存在している点で、およそ理由のない身体拘束がされた場合に比べて、適法な手続からの逸脱の程度は小さいとも評し得る本件において、なぜ違法が重大だといえるのか、事実を摘示しながら、その理由を説得的に論じることが必要であろう(手続の違法性の有無・程度は、それが行われた時点を基準にして判断すべきであり、逮捕状への虚偽記載や偽証といった警察官の事後的な対応によって、既になされた逮捕手続の違法が遡及的に重大なものに変化するわけではない)。
 また、違法な先行手続により作出された状況の下で採取された尿の鑑定書の証拠能力について、最高裁昭和61年4月25日第2小法廷判決(刑集40巻3号215頁)等の判例は、先行手続との間で、目的の同一性や先行手続の結果を直接利用する関係が認められる場合には、その違法の影響が、後行する直接の証拠収集手続に及び(違法の承継)、違法収集証拠排除法則による検討を要するとしてきたが、前記平成15年判決は、証拠能力の検討に当たり、採尿手続の適否自体に言及していないことから、後行手続への違法の承継を論ずることなく、違法な逮捕との「関連性」の有無・程度を問題とすれば足りるとしたもののようにみえる。いずれの立場をとるにしても、本件では、先行手続(窃盗事件のための逮捕)と後行の証拠採取手続(覚せい剤自己使用事件のための採尿)との間で目的の同一性を欠いていることから、違法な逮捕と採取された尿が、先行手続といかなる意味で「密接に関連する」といえるか、事実を摘示しながら、その理由を説得的に論じることが必要であろう(前記平成15年判決では、本件採尿が逮捕当日にされたという事実が指摘されるにとどまる)。
 違法収集証拠の証拠能力は、刑事訴訟法において、基本的で重要な問題であり、少なくとも、上記判例の事案と判断内容を正確に理解していることが望まれる。

<面接試験・既修者用>

 本問の狙いは、すでに一定の法的知識を有する志願者が単に既存の種々の法令を解釈・適用する能力を持つだけでなく、既存の種々の法令に含まれている問題とその解決策について的確に指摘できる能力を試すところにある。このような能力は、法律実務家が、法令における明文規定の意義やその解釈・適用可能性の限界について検討しようとする場合に求められる必要不可欠な能力である、と考えられる。また、なぜ具体的な法令が一定の具体的な改正を必要とするかについて、口頭で説明を求めることは、志願者が、当該法令そのものの意義・機能・問題点、また改正案についてのメリットとデメリットについて説明する的確なコミュニケーション能力を有するか否かを試すものである。このような能力もまた、将来の法律実務家にとって必須の能力である、と考えられる。


<面接試験・未修者用>

 本問の狙いは、法律学をこれから学ぶことが想定されている志願者に対して、自らの身近な生活の中や社会における不公平なルール(法令に限られない)を摘示させ、なぜそのルールが不公平なルールであるかを説明させることによって、志願者が、社会において現に通用しているルールについての認識(現に存在するルールをルールとして適切に認識することができること)・内在的理解(当該ルールの追求しようとする価値や狙いについて適切に理解することができること)・批判的吟味(当該ルールのもつ様々な問題点を適切に指摘することができること)を行う能力を有するか否かを検証し、また、志願者がそのような認識・内在的理解・批判的吟味の結果を的確な表現を用いてコミュニケーション能力を有するか否かを試すところにある。以上の二つの能力を有する者こそが、法科大学院に入学後に実定法学を学ぶ適格性を有する、と考えられる。
 なお、本問において問われているのは、志願者が社会におけるルールについて認識・内在的理解・批判的吟味を行う能力を有するか、そしてその結果を的確に表現できるかどうかであって、志願者の実定法令に関する知識の多寡等は評価の対象とされていないことに注意されたい。

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