2014年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

問題

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法行政法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法行政法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>
 いわゆる「一票の較差」は,判例の展開が目覚ましい領域である。判例の流れを理解するためには,過去の判例も的確に理解していることが必要である。本問は,衆議院議員選挙についての最大判昭和51年4月14日民集30巻3号223頁と参議院議員選挙についての最大判昭和58年4月27日民集37巻3号345頁に関する基本的な理解ができているのかを試すことを目的としている。具体的には,昭和51年判決がいわゆる「事情判決の法理」を用いた理由や衆議院議員選挙と参議院議員選挙との違いなどを指摘しながら,丁寧に解答することが求められている。

<公法(行政法)>
 本問は、最判平成24年2月9日民集66巻2号183頁をモデルとしており、抗告訴訟としての差止訴訟と公法上の当事者訴訟としての確認訴訟との関係、及び、それぞれの訴訟要件について、理解を試すものである。
 まず、本件通達及び本件職務命令の処分性を検討すべきであり、判例に従ってこれらの処分性を否定した場合、本件職務命令に従わないことを理由とする懲戒処分の差止訴訟について、訴訟要件を満たすか否かを検討すべきである。具体的には、①処分が行われる蓋然性の要件について、本件の事情の下では、懲戒免職処分に関してはこれを満たさないのではないか、②「一定の処分」としての処分の特定の要件について、「本件職務命令違反を理由とする停職、減給または戒告の懲戒処分」という包括的な請求であってもこれを満たすか、③「重大な損害を生ずるおそれ」の要件について、本件通達を踏まえて懲戒処分が反復継続的かつ累積加重的にされる危険が現に存在するという本件の状況の下では、これを満たすのではないか、等を検討すべきである。
 次に、本件職務命令による起立・斉唱・伴奏義務がないことの確認訴訟について、将来の懲戒処分の予防を目的とする場合と、処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とする場合とに分けて、検討すべきである。前者については、判例に従えば法定外抗告訴訟としての適法性を検討すべきであり、後者については、公法上の当事者訴訟としての確認訴訟と位置づけた上で、本件で確認の利益が認められるかを検討すべきである。

<民事法(民法)>
第1問
 本問は、民法上の基本的事項に関する理解を問うものである。
 小問1は、賃借権は、本来、賃貸人と賃借人との契約に基づく債権であるが、借地借家法等の特別法により物権類似の性質を与えられることで、賃借人の地位が強化されていることの指摘に加え、正当事由や法定更新制度による存続期間の保障、緩和された要件での対抗力の承認、借地権の譲渡性の保障等に具体的に言及するのが望ましい。
 小問2は、債務不履行や不法行為によって損害を受けた者が、損害を受けたのと同じ原因により利益をも受けた場合に、その利益を損害額から控除して損害賠償額を定めることであるとの説明に加え、死亡損害における逸失利益からの生活費控除等の具体例を挙げ、条文はないが公平の観念に基づいて認められることに言及するのが望ましい。
第2問
 本問は、不動産につき、その所有者の意思によらず、他者の行為の介在によって第三者に処分された場合に、当該第三者の所有権の取得を否定できるかが問題となる事例を素材に、いわゆる権利外観法理の理解及びその適用の能力を試すものである。
 小問1、小問2において、所有権を取得できることについて第三者に信頼させるに足る外観が存し、その外観の作出に対し所有者が一定の関与をしている点は共通するが、他人の行為の介在の程度及び第三者が信頼した対象には違いがあり、それに応じて、小問1では表見代理が、小問2では民法94条2項の類推適用が問題となる。解答においては、根拠となる条文を適切に選択し、それぞれの法理における各要件に応じた具体的な立論、あてはめを行うことが求められる。

<民事法(商法)>
第1問
 いわゆる授権資本制度の趣旨を問うものである。経営陣による機動的な資金調達の必要性と,第三者割当によって損害を受ける可能性のある既存株主の保護の必要性との調和を図るためのものであることを説明してもらえればよい。
第2問
 いわゆる「登記簿上の取締役」に関する最高裁判例の法律構成を問うものである。一定の条件が満たされる場合には,会社法908条2項を類推適用するというのが最高裁の考え方であり,それについて説明してもらえればよい。会社法上の表見代表取締役法理や,民法94条2項類推適用について問うている問題ではない。
第3問
 いわゆる資本維持のための規制として,会社法は,分配可能額規制に加えて,純資産額の最低限に関する規制を設けている。分配可能額規制に加えて純資産額規制を設けることが,どのようにして債権者保護に役立つのかについて説明してもらえればよい。
第4問
 いわゆる閉鎖会社においては,経営陣の内部で内紛が起きた場合に,少数派の取締役に対して報酬決議(場合によっては退職慰労金決議)を行わないことによって,その者に対して報酬支払いをしないといった「いじめ」が行われることがある。このような場合について,最高裁は,確かに,会社法361条1項の趣旨(いわゆる「お手盛り防止」)を根拠に取締役の報酬支払い請求を認めていないが,下級審裁判例は,そのような硬直的な処理では,報酬の支払を受けられない取締役に対してあまりに酷であるとして,さまざまな法律構成で報酬支払いを認めている。この点について,どのように考えるかを説明してもらえればよい。
第5問
 合併を行う際には,存続会社において合併契約の承認決議を株主総会で行う必要があるが,いわゆる簡易合併と略式合併の場合とがあるが,それらがどのような理由に基づいているのかを問うものである。特に略式合併の場合,ここでは,消滅会社ではなく,存続会社において承認決議が不要となっている場合が問われていることに注意が必要である。

<民事法(民事訴訟法)>
 小問(1)は、一部請求訴訟の訴訟物を特定させる基準を問う問題である。通常、金銭を目的とする給付訴訟において、訴訟物を特定するための特定要素として当該債権の金額を必要とする。しかし、一部請求訴訟の訴訟物については問題である。判例の立場は、当該債権の一部であることが明示されていれば、当該一部が訴訟物になるというものと理解されている。この「明示」がされているかどうかを中心に解答することが要求される。
 小問(2)は、第1訴訟における判決の既判力が第2訴訟にどのように影響するのかについての知識を問う問題である。
 小問(3)は、一部請求訴訟で一部敗訴となった原告からの残額請求を求める訴えを、設問のように既判力を理由に遮断するか、あるいは、判例にしたがって、信義則により却下判決をするかについて論じさせる問題である。

<刑事法(刑法)>
 本問は、簡単な事案を素材にして、問題となる行為を的確に捉えた上で、①強盗致傷罪の成否(その前提としての強盗罪の成否)を適切に論述する能力を有しているか、②共同正犯の成立要件を正確に理解しているか、③共犯関係からの離脱や共謀の射程に関する知識を的確に使用して、自らの解決を説得的に論述する能力を有しているかといった点を確認することを目的としたものである。

<刑事法(刑事訴訟法)>
 最高裁昭和45年11月25日大法廷判決(刑集24巻12号1670頁)の判断内容に関する基本的知識を有することを前提に、その事案と類似した設例を用いて、自白の証拠能力に関する理解度を確認することなどを目的として出題した。
 刑事訴訟法319条1項が、「任意にされたものでない疑いのある自白」(不任意自白)を証拠から排除していることの根拠については、学説上、①不任意自白には類型的に虚偽のおそれがあり、信用性に乏しいから排除されるとする虚偽排除説、②不任意自白は、供述の自由の制約を伴うため、黙秘権の保障を担保するために排除されるとする人権擁護説、③不任意自白は、自白獲得手段が違法であるから排除されるとする違法排除説、という3つの考え方に整理されている。
 本問の検討に際しては、条文の文言を出発点として、上記の考え方の趣旨・相互関係を踏まえたうえで、問題の所在を的確に指摘し、事案に即して議論を展開することが肝要である。
 設例では、K警部が、取調べの際に、Xに対し、実際はAがXの本件関与を否定する供述を続けているにもかかわらず、「奥さん[A]は、本件犯行について、夫と共謀したと話している。」と告げて、Xにも本件犯行への関与を認めるよう促している(=偽計が用いられている)が、Xは否認し続け、さらに、同じ日に行われた取調べの際に、K警部が、「奥さんは自供している。誰も奥さんが独断で買ったとは思わない。こんなことで二人とも処罰される事はない。男らしく認めたらどうだ。もし共謀を認めれば、奥さんは起訴を免れることがあるかもしれない。」と告げた(=利益が示唆されている)ところ、その直後にAとの共謀を認め、自白するに至っている。
 不任意自白の排除に関する根拠に照らすと、K警部がXの取調べに際して用いたいずれの手法(偽計及び利益の示唆)も問題視される可能性があり、例えば、K警部の働きかけがXの意思決定に及ぼした影響を問題とする場合には、まずXがなぜ自白に至ったのか(その原因はK警部による偽計か、利益の示唆か、あるいはその双方か)を見極め、その際のXの心理状態(働きかけによって、類型的に虚偽の供述を誘発するおそれのある状態が生じたか、あるいは、供述の自由が制約されたか)を検討することが必要となろう。これに対し、自白獲得手段の違法性を問題とする場合には、K警部の働きかけのどこにどのような違法があるかを明らかにする必要がある。仮に供述の自由に対する制約が認められれば、手段の違法性を基礎づける有力な根拠となるであろう。
 また、被告人Xの供述を録取した書面は、伝聞法則(刑事訴訟法320条1項)との関係でも、証拠能力の問題を生じるから、伝聞例外の要件を満たすかについてもあわせて検討することが必要である。
 前出の最高裁判決のように、多くの教科書で言及されている、基本的な判例については、その事案の概要と判断内容を正確に理解していることが望まれる。

<小論文>
 東北大学法科大学院は、法的思考に対する適性と正義・公正の価値観を備えた者を学生として受け入れることを理念としている。小論文試験では、法的思考を身に付けるために必要不可欠な能力、すなわち、資料を正確に理解し、整理・分析してその要点をまとめ、それを文章へと構成する力を評価することを目的としている。
 今年度は、一見身近に見える問題を取り扱いながら、高度に抽象的で、丁寧な読解によらなければ十分な理解が得られない文章を課題文として取り上げ、解答者が著者のことばを十分に理解・消化したうえで、課題文の主張の要点を文章にまとめあげることができるかをみた。問1と問2では基本となるキーワードについて、問3と問4では課題文のより踏み込んだ内容について、正確に把握できているかについて評価した。いずれの設問においても、文章の構成力・表現力もあわせて評価の対象とした。

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