2016年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

問題

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法行政法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法行政法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>
 本問は、外国人の憲法上の権利享有主体性につき、判例を踏まえた理解ができているかどうかを問うことを目的としている。
 いわゆるマクリーン事件上告審判決(最大判昭和53年10月4日民集32巻7号1223頁)において、最高裁は、「基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきである」として、外国人の憲法上の権利享有主体性につき、「権利性質説」を取ることを明らかにした。問1は、その「権利性質説」についての説明を求めるものである。なぜ「外国人の憲法上の権利享有主体性が問われるのか」という背景を踏まえた説明が求められる。
 上記判決は、権利性質説をとりながら、「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、…外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎない」として、外国人の憲法上の権利を法律と行政機関の裁量に委ねている。これでは外国人も権利の性質に応じて、憲法上の権利の享有が認められるという命題は成りたたない。この問題をどう考えるかを問うのが、問2である。
 外国人に保障されない権利として、狭義の参政権が挙げられる。これに対し、最高裁は、在外邦人選挙権訴訟上告審判決(最大判平成17年9月14日民集59巻7号2087頁)において「在外国民に投票することを認めないことについて、やむを得ない事由があるということはでき〔ない〕」とする一方、永住資格を有する定住外国人に地方自治体レベルにおける選挙権を法律で付与することは憲法上禁止されないとした(最判平成7年2月28日民集49巻2号639頁)。問3では、この2つの判決から、「国政」レベルの選挙権と「地方自治体」レベルの選挙権との違いを比較検討することが求められている。

<公法(行政法)>
 本問は、最判平成27年3月3日民集69巻2号143頁をモデルとしているが、この判決の知識を問う趣旨ではなく、取消訴訟の狭義の訴えの利益(行訴法9条1項かっこ書き)および裁量基準への覊束について、基本的な理解を試す趣旨である。
 まず、営業停止という本件処分の効果は、停止期間の満了によりなくなっているが、それでもなおXが本件処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有するか否かが、行訴法9条1項かっこ書きとの関係で問題となることを指摘しなければならない。その上で、本件処分を取り消さなければ、Xが3年以内に再度営業停止処分を受ける場合に本件基準に従って量定が加重されること、および、本件基準の法的性格は法令ではなく裁量基準であるが、行政庁は合理的な裁量基準には覊束されると解されるから、本件処分の取消しにより本件基準に従った量定の加重がされないようにすることは、法律上の利益といえることを論ずるべきである。

<民事法(民法)>
第1問 代理及び法人に関する基本的理解を問うものである。法人の理事の代表権の特徴に照らして、通常の表見代理との相違を説明することが求められる。
第2問 利益の吐き出しという事例を題材として、基本的法理の内容理解を問うとともに、その限界がどこにあるのか(あるいはどのようにそれを克服するのか)について応用的思考を試すものである。準事務管理・不当利得(物権法上の果実返還請求)・不法行為を取り上げて論じることが求められる。
第3問 同時履行の抗弁権と留置権という類似の制度についての比較を行わせるものである。それぞれの趣旨と体系的位置付けに照らした整理が求められる。
第4問 相殺と差押えという基本的論点についての理解を問うものである。「無制限」説と呼ばれるゆえんを条文に照らして記述するとともに、それがなぜ主張・支持されるかを、対立する見解との対比を意識しつつ明らかにすることが求められる。
第5問 「任意解除」という特殊なタイプの解除についての知識を問うものである。基本型解除(債務不履行解除)との関係での特殊性を正確に理解できているか、その根拠を各契約(役務提供契約)の特徴に絡めて論じることができるかが試される。
第6問 民法の既存条文への立法論的評価を論じさせるものである。債権法改正の動向や近時の家族法関係の最高裁判例等をも意識しつつ、単なる知識の詰め込みではなく、問題意識を持って能動的に民法を眺めることができているかが問われる。

<民事法(商法)>
第1問
会社法上の手続要件のほか,株主権の濫用になるような場合について問うものである。
第2問
代表取締役の権限濫用があった場合の処理について,問うものである。
第3問
仮装払込があった場合の,責任の発生の仕方(213条の2・213条の3)について問うものである。
第4問
完全親子会社における代表訴訟の提訴懈怠の可能性,株主権の縮減などのニーズと,株主による濫用防止のバランスについて問うものである。
第5問
改正前の全部取得条項付種類株式を利用したキャッシュアウトのほかに,特別支配株主による売渡請求が導入された趣旨について問うものである。

<民事法(民事訴訟法)>
1.
(1)裁判(判決)をする際に裁判所が用いる資料を裁判資料(広義の訴訟資料)と呼ぶが、このうち(狭義の)口頭弁論から得られる資料を(狭義の)訴訟資料と言い、証拠調べにより得られたものを証拠資料と言う。つまり、両当事者が訴訟関係を明らかにするためにする事実主張の総体を訴訟資料、両当事者が自らの事実主張を証明するために行われる証拠調べによって感得した内容を証拠資料と言う。なお、通常の教科書における概念整理が必ずしも統一されているとは言えない点について、採点にあたり、十分に配慮した。
(2)裁判所は、当事者の主張しない事実を判決の基礎とすることはできないという弁論主義の第1原則(準則・テーゼ・主張原則)を、(1)の用語法で言い換えることにより、実務的素養を確認する趣旨である。
2.
①について:第1回口頭弁論期日において、Y主張の抗弁事実をXが「認める。」との陳述をしたことは、一部弁済の抗弁事実について裁判上の自白となる。ところが、第2回口頭弁論期日において、Yが一部弁済の抗弁を取り下げている。この取下げ(撤回)が許されるかどうかが問題である。自白の要件として、自己に不利益な陳述を必要とするかどうかで答えは変わってくるだろう。
②について:代わりにYより主張された商事消滅時効の抗弁であるが、これに対抗して主張されたXの再抗弁事実は、債務の承認であって、具体的には一部弁済があったという事実主張である。したがって、Yから一部弁済の抗弁が取り下げられていたとしても、Xの再抗弁事実である債務の承認という主張は、Xからの一部弁済の事実主張と等価である。また、弁論主義は、裁判所と当事者の役割分担を規定するものであり、両当事者間の役割分担を規定するものではなく、裁判所は、原告・被告いずれかの当事者の主張があればこれを基礎として判決することができる。これを(弁論主義における)主張共通の原則という。これらの点につき、基本的な理解を問う問題である。

<刑事法(刑法)>
本問は、簡単な事案を素材にして、①問題となる行為を的確に捉える能力の有無、②知識を活用して事案を適切に解決する能力の有無、③恐喝罪の成立要件に関する正確な理解の有無、④権利行使と恐喝という問題に関する正確な理解の有無、⑤正当防衛の成立要件(特に、防衛の意思と防衛行為の相当性)に関する正確な理解の有無、⑤共犯の処罰根拠に関する正確な理論的知識の有無、⑥片面的幇助犯に関する正確な理解の有無等を確認することを目的としたものである。

<刑事法(刑事訴訟法)>
本問は,最(三小)判平成12・6・13刑集54巻5号1635頁をもとにしたものである。接見交通権の基本的な意義を踏まえたうえで,接見指定の要件(刑訴法39条3項本文)が充足されているか否か,そして,要件が満たされていると解する場合における接見指定の内容の当否(刑訴法39条3項但書に反しないか否か)について,逮捕直後の初回接見の申し出が行われていることに注目しつつ,検討することが求められる。

<小論文>
 東北大学法科大学院は、法的思考に対する適性と正義・公正の価値観を備えた者を学生として受け入れることを理念としている。小論文試験では、法的思考を身に付けるために必要不可欠な能力、すなわち、資料を正確に理解し、整理・分析してその要点をまとめ、それを文章へと構成する力を評価することを目的としている。
 今年度は、政治に関する比較的長い文章を取り上げ、これを正確に理解した上で、筆者の主張を的確に説明できるか否かをみた。問1、問2では、傍線の意味を、筆者の論旨に即して説明できているかどうかを評価した。問3は、それぞれの民主政論の構想の違いを的確に説明できているかどうかを評価した。問4は、文章後半における筆者の論旨を適切に要約できているかどうかを中心に評価した。また、解答の全体を通じて、文章構成力を評価した。

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