2018年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

一般選抜(後期)等

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>
 小問1では、憲法14条1項による法の下の平等の保障は絶対的平等を保障したものなのかそれとも相対的平等を保障したものなのか、憲法14条1項後段列挙事由は限定列挙なのか例示なのかといった点等に触れながら解答することが求められる。
 小問2では、最高裁が、刑法200条の立法目的は合理的根拠を欠くものではないが、刑の加重の程度が極端であるために立法目的達成の手段として著しく均衡を失していたことを理由として、刑法200条を違憲と判断したことを簡潔に説明することが求められている。
 小問3では、小問2の解答を踏まえて解答することが求められている。
 小問4は、いわゆる違憲判決の効力に関する学説の争いに関するものである。学説の対立としては個別的効力説と一般的効力説の対立が有名であるが、本問では、そうした学説上の対立について、内閣の法律誠実執行義務(憲法73条1号)との関係にも触れながら検討することが求められている。

<民事法(民法)>
【第1問】
 法定代理とその背後にある本人の行為能力制限等との関係を説明させる問題である。なお、不在者財産管理人の権限や夫婦の日常家事代理権など、行為能力制限と関係ない法定代理の例を挙げた場合でも、当該法定代理権の存在理由が十分に説明されていれば評価されるが、表見代理や無権代理行為の追認は代理権なくして代理行為の効果を本人に帰属させる制度であって、無権代理人に代理権を取得させる制度ではない。
【第2問】(配点15)
 請求権競合が生ずる具体的場面を挙げさせて、請求権競合に関する理解の正確さやひいては民法に関する分野横断的な視野の有無を確認しつつ、当該具体例に則して、請求権競合を認めることの当事者にとっての利害得失(請求原因や消滅時効の違い等)を理解しているかを確かめる問題である。
【第3問】
 不動産の二重譲渡と第一譲受人の留置権(最判昭和43年11月21日民集22巻12号2765頁)に関する事例を法的に分析して紛争を解決することを求める問題である。
 この問題を「論点」として知っている学生は論点に飛びつきがちであるが、担保権の成否を論ずるためには、まず被担保債務の成否、つまりBが主張するとおり売買契約上の債務の履行不能に基づく損害賠償請求権が成立したのかを事案に即して踏まえる必要がある。
 そのうえで、留置権が法定担保権であることに鑑み、条文上の要件を意識して(仮に解釈によって不文の要件を導出するにしても、条文上の要件と関連づけて)、他方で留置権の制度趣旨をも意識して、留置権の成否(または対抗可能性)を論ずることが求められる。
 さらに、留置権の成否(または対抗可能性)を論ずるに当たっては、不動産の二重譲渡における対抗要件主義(民法177条)の適用上劣後するBが優先するCに対して留置権を行使して明渡しを拒むことを認めることの実質的妥当性も考慮の対象となり得る。
【第4問】(配点15)
 賃借権の「物権化」という学説上の概念について説明させることで、不動産賃借権の効力に関する理解を確認しつつ、他方で物権概念あるいは物権と債権との区別(のゆらぎ)について考えさせる問題である。
【第5問】
 離婚に伴う財産分与が詐害行為取消しの対象となるかについて、十分な実質的考慮に基づき、かつ適切な法律構成によって問題の所在を捉え、一定の結論を出すことができるかを問う問題である。判例の結論がどのようなものかを問う趣旨ではない。
 法律構成としては、「財産権を目的としない法律行為」(424条2項)該当性または詐害性(424条1項)の観点から議論することが求められる。他方でその際には、財産分与審判の指針を定めた768条3項が婚姻中に夫婦の協力によって形成された財産の額を一考慮要素とするにとどめていることの趣旨をも意識することが求められる(最判昭和58年12月19日民集54巻3号1013頁参照)。

<民事法(商法)>
第1問
 当該取引が会社法上どのように位置付けられるか(いわゆる間接取引(356条1項3号)に当たる)および、適法な承認を欠く利益相反取引の効力はどうなるか(判例・通説は相対的無効説をとる)について、理解を問う問題である。
第2問
 取締役の報酬および監査役の報酬は、いずれも定款または株主総会の決議で決定しなければならないが(361条1項・387条1項)、その趣旨は異なること(取締役の報酬については、お手盛りの防止、監査役の報酬については、監査役の(業務執行機関からの)独立性の確保が規制の趣旨である)を理解しているかどうかを問う問題である。
第3問
 平成26年改正により導入された特定責任追及の訴え(いわゆる多重代表訴訟)の趣旨についての理解を問う問題である。
第4問
 募集株式の発行等の手続につき、会社法は、公開会社と非公開会社とで異なる扱いをしていること(199条2項3項・201条1項)および、この違いが適法な決議を欠くことが新株発行無効事由になるかどうかの解釈にも影響することについて、理解を問う問題である。
第5問
 組織再編時の反対株主の株式買取請求(785条等)における「公正な価格」の意味につき、シナジーその他の企業価値の増加が生じる場合には、増加する企業価値の適正な分配を考慮して算定すべきである(シナジー適正分配価格)と解されていることについての理解を問う問題である。

<民事法(民事訴訟法)>
(1)は、証明責任概念について理解を問う問題である。
(2)は、Zが原告としてまず主張するべき事実として、XとY間に貸金返還債権が発生した事実(返還の合意と現金の授受+返還時期の合意とその到来)、及び、Xから当該債権をZが買い受けた事実(X・Y間に申込と承諾があったこと)が挙げられよう。
(3)X・Y間の確定判決の既判力の問題である。まず、X・Y間の確定判決は、民訴法115条1項3号により、口頭弁論終結後の(Xの)承継人であるZに及ぶ。したがって、X・Y間の貸金返還債権については、証拠調べをすることなく、後訴裁判所は、その存在を前提として裁判しなければならない。

<刑事法(刑法)>
本問は、簡単な事案を素材にして、
①問題となる行為を的確に捉える能力の有無、
②知識を活用して事案を適切に解決する能力の有無、
③器物損壊罪・住居侵入罪・窃盗罪・強盗罪といった主要犯罪の成立要件に関する正確な理解の有無、
④実行の着手時期に関する正確な理解(関連判例の知識・理解を含む)の有無、
⑤共同正犯と教唆犯の区別に関する正確な理解の有無、
⑥共同正犯(教唆犯)の各要件に関する知識とその事案への適用能力の有無
⑦共犯と錯誤に関する正確な理解の有無
等を確認することを目的としたものである。

<刑事法(刑事訴訟法)>
本問は、不任意自白に基づいて発見された証拠物に関する近時の著名な下級審裁判例である、東京高判平成25・7・23判時2201号141頁をもとに作題したものであり、自白法則と排除法則の適用につき、同判決を踏まえつつ検討を行うことが求められる。

<小論文>
 東北大学法科大学院アドミッションポリシー(以下AP)に則り、受験者の社会・人間関係に対する洞察力、国際的視野について審査できる素材として、国際的な格差問題、国家の役割を扱う近時の社会科学の基本文献であるDaron Acemoglu & James Robinson, Why Nations Failの邦訳を課題文に選択した。本文献は国内外の大学・大学院の多くの授業(マクロ経済学・開発経済学・比較政治・国際関係論・社会科学方法基礎論・社会学入門など)でも取り扱われている基本文献であり、APの求める「幅広い教養」を審査する意味もある。
 問一は、課題文が直接には扱っていない「再分配」という問題について、課題文の立場からはどのようなことがいえるのかを問う出題である。これは、本文の記述の射程がどこまで及ぶのかを考えるという社会科学の基本的論理操作、かつ、命題(とりわけ判例法理・条文など)の射程の検討・distinctionという論理操作をする能力が身についているか否かを問うことで、APの掲げる「法的思考に対する適性」を審査するものである。
 答案の作成に当たっては、指定した傍線部分の記述のみから射程を厳密に考えるのみならず、その他の本文中の記述から、「再配分」に理論的に関連する箇所を拾い上げていくという作業ができることを期待した。これは、distinctionの作業において、APの掲げる「説得・交渉の能力」(とりわけ「法的思考」としての「説得」)として求められる能力であるからである。
 問二は、「包括的な政治制度」(包括的な制度)という本文の主張の中心をしっかり理解しているのかどうかを審査するための出題である。この本文の新規性(筆者は、従来の議論の蓄積では不十分だった点としてどういう点を新たに主張している〔つもりな〕のか)を把握するという作業は、社会科学の基本的手法であり、かつ、今後「法的思考」(AP)を身に着けるための法律学の学習を開始するにあたり前提として必要となる能力である。
 従前、現代社会の基本概念とされてきた多数決原理と筆者の「包括的な政治制度」とを比較することで、新規性が把握できているのかを審査した。なお、本出題は、作題者としては、当初は多数決原理ではなく「民主主義」との比較を求めるつもりであったところ、問題文の意図の明確化を理由に断念したものである。これは、APの求める「社会……に対する洞察力」の審査には、多数決原理よりも人口に膾炙している民主主義のほうが優れていると思われるのと同時に、比較の基準・指標となる概念自体に可塑性(操作可能性)がある場合にどのように比較するのかという作業は「過失」、「正当事由」といったあいまいな中間概念を頻繁に用いる法律学において「法曹……に必要とされる法的思考に対する適性」(AP)の審査には適していると解されたからである。
 それに伴う難易度調整のため、「包括的な政治制度」の傍線部を、その意味内容を説明している箇所(本文123頁)とは異なる箇所にあえて設定し、その意味内容を指定された傍線部以外の箇所からきちんと把握することができるか確認した。
 そして、本文の「包括的な政治制度」の内容としての多元主義から、現在社会における「正義と公正」(AP)がどのような機能を果たしているのかの理解を問うた。

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